昨日今日明日あさって。(幼年学校)74 - 金色銀色茜色

 宮廷での私闘はあってはならぬこと。

それなのにバイロン神崎子爵は腰に下げていた短剣を抜いて、

エリオス佐藤子爵に背後から斬り掛かった。

無防備の老人の背中を切り裂いた。

衣服が裂けて血飛沫が飛んだ。

老人の悲鳴が上がった。

 エリオスに同行していたフランク板倉男爵が歩みを止め、

何事か、と隣を見た。

倒れそうな様子の子爵を両手で支えた。

背中から噴き出す血と、視界に入ったバイロンの様子に、

思わず息を呑む。

それは一瞬、直ぐに状況を察した。

あり得ぬ事。

絶対にあり得ぬ凶行。

それが今、自分の目の前で起きた。

上司のエリオス佐藤子爵を庇いながら叫んだ。

「神崎子爵、お止めて下さい、ここは宮中ですぞ」

 バイロンの表情はピクリともしない。

耳に入らないのか、届かないのか、殺気丸出しで短剣を握り直した。

そして直ぐに動いた。

フランクに体当たりしながら老人の脇腹を刺した。

 バイロンに同行していたクラウド守谷男爵は我が目を疑った。

目の前の凶行が信じられなかった。

金縛りにあったかのように、全く動けなかった。

それを解いたのは同僚、フランクの叫び。

バイロンとは上司と部下の関係でしかない。

分けの分からぬ凶行に加わるつもりは毛頭ない。

「お止めなさい、神崎子爵」

 クラウドバイロンの背後に回り込み、羽交い締めにした。

それを好機と、フランクがバイロンの手から短剣を叩き落とした。

 こちらに駆け付ける複数の足音。

幸い近くに何人か居たらしい。

園遊会の準備をしていた典礼庁のスタッフに違いない。

騒ぎに気付いたのだろう。

彼等が血相を変えて駆けて来た。

見覚えのある顔ぶればかり。

クラウドは彼等に指示をした。

「神崎子爵が狂われた。

私とフランクで子爵を押さえるから、

みんなは佐藤子爵の手当てを頼む」

 クラウドとフランクの二人して押さえ込むのだが、

それでも肝心のバイロンは悪足掻きを止めない。

隙を見ては叩き落とされた短剣に手を伸ばそうとした。

凶行の遂行を諦めていない。

 国王の執務室に響くノックの音。

外からドアが開けられ、

廊下で立ち番をしていた近衛兵が顔を半分覗かせた。

管領様がお出でになりました。面会をご希望です」

 ブルーノ足利が返事するよりも早く、

ボルビン佐々木侯爵が近衛兵を押し退け、

「気の利かない奴だ」と言いながら入って来た。

 横柄な態度は何時ものことなんだが・・・、

今日は何かを隠している雰囲気・・・。

双眼が怒りに打ち震えているように感じ取れた。

この忙しい日に問題が持ち上がったらしい。

ブルーノは首を傾げた。

「爺、人払いが必要か」

 ボルビンはドアを荒々しく閉めると、

ブルーノを獲物でもあるかのように見ながら、歩み寄って来た。

高齢、加えて痩身、吹けば飛ぶような体?にも関わらず、

この威圧感、半端ない。

「不要。

秘書の方々の手も借りなければならぬでしょうからな」

「それで」

「拙いことが起きた。

・・・。

典礼庁の長官が私の所に駆け込んで来ましてな」と報告を始めた。

 事件は庭園で起きた。

端的には、バイロン神崎子爵がエリオス佐藤子爵を襲い、

短剣で背中に斬り付け、脇腹を刺した、と言うことらしい。

 ブルーノは質問した。

「佐藤子爵の生死は・・・、

爺の落ち着きようからすると生きているのだな」

「なんとか。

ポーションが届くのが早かったから一命は取りとめた。

が、高齢だ。

魔法使いが治癒に取り組んでいるが、

二本足で歩けるようになるかどうかは分からんそうだ」

「そうか。

で、バイロン神崎子爵はどうなった」

「幸いにも居合わせた典礼補佐の男爵二人が取り押さえた。

今は、近衛が引き取り、地下牢にぶち込んでいる」

「何故、斬り付けた。口論か」

「口論はない。

擦れ違い様、行き成りだったそうだ」

「それなりに理由はあるんだろう」

「理由はあるだろうが、佐藤子爵は今は口が利けない。

一方の神崎子爵は近衛の牢で死んだように黙りだ」

「不明か、困ったな・・・。

あそこには謁見場がある。

謁見の後には夜会と園遊会をセットにして行う予定も。

爺、どうする」

 今日は目出度い日なのだ。

国王個人としてだけではなく、国家として最大の儀式を行う日であった。

既に凱旋パレードが行われていた。

外郭の東門から入場したバート斉藤伯爵やレオン織田男爵の一行が、

外郭の東西南北各街の表通りを一周している最中。

終えたら内郭、王宮区画で謁見する段取りになっていた。

それを今さら中止にはできない。

「血は流れたが、幸い死んだ者はいない。

それに現場の者達の判断も良く、箝口令が徹底されている」

「そうか。

・・・。

死亡者がいなければ儀式の差し障りにはならぬな。

・・・。

確か、私の記憶に間違いがなければ、

バイロン神崎子爵とエリオス佐藤子爵は謁見と園遊会

それぞれの責任者ではなかったのか」

「そうだが代わりは掃いて捨てるほどいる。

長官に聞いた限りでは、

現場に居合わせた典礼補佐の男爵二人も気が利いてそうだ」

 ブルーノは秘書達に視線を向けた。

「手を止めてっ、とっ、止めてるか。

聞き逃しはないな」」

 本日の予定に変更はなし。

事件と典礼二人が欠ける事によって生じる余波、

それらを洗い出して対処するように秘書達に命じた。

ブルーノが大筋を決め、仔細の詰めは秘書達側近の仕事。

これが主従のあるべき姿。

誰にも異論はない。

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